長岡是好日

2018.07.06

楕円の月

ふと思い立って長岡市街から車で40分ほど。
JR信越本線・塚山駅に差し掛かると、20時半になるというのに人が多い。
ああそうかと合点がいって先を急ぐ。ちょうど「越路ホタルまつり」の日に当たってしまったということだ。

去年は忙しさにかまけて見に行かず、今年こそはと考えていたのだった。
ぼんやりゆったりと眺めたり写真を撮ったりしたいので、できるだけ少人数か自分ひとりが良い。
山登りと一緒で(一緒でもないかもしれない)、少々わがままにするには、気を遣うポイントは削いでおきたいところ。

それなのに思い立ったが吉日、というか。
この旧越路町は塚山の里山が最もにぎわう日に僕は来てしまった。
やれやれと思いながら車から降り、カメラバックと三脚と、念のためのヘッドライトを首に掛けて、里山へ歩きだした。

いつもなら、虫の音や自分の地面を踏みしめる音を聞きながら、ホタルに気を遣って明かりもつけずに歩いていく(明かりはつけましょう。危ないです)。
すると自分が夜に溶けていくようで、これちょっと怖いようで心地よいのだ。

それなのに。
ホタルシーズンの只中、しかも土曜日、加えてお祭ということで、本当に人が多い。
老若男女、言葉を聞くと他県からのお客さんもいるらしい。
暗闇と里山と、ホタルと。いまここにあるのはそれだけの要素。
感心しきり。お好きですねえと、自分にも言ってみた。

ホタルの光は結構に淡い。
人の目ならまだしもカメラにとっては、割とハードな被写体だ。
数千、数万匹のホタルが群生する土地ならまだ楽なのだけれど、越路のホタルたちは割合慎ましく、一カ所に10匹も光っていれば御の字。
各々が好き勝手に輝くわけで、1回のシャッターで“光の乱舞”というのは叶わない。

したがって星の軌跡を撮るように数分から数十分、シャッターを切り続ける必要があるのだが、その間はカメラを動かしてはいけないし、前に人が通ったりすれば、ぼんやりと気味悪く映り込んでしまう。
我が物顔で夜道を防ぐわけにもいないし、だからホタルは、少人数が良いのだ。

困った要素がまだあった。
月齢9.3の月。
ホタル目当ての目には明る過ぎる照明だ。
夕方は霧雨が降っていたのに、雲が切れて月明かりが里山を照らしていく。
木々や田んぼの緑がぼんやりと色づいて、川端康成的に言えば“夜の底が緑になった”状態。もう、絶景というほかない。

静かなる賑わいと麗し過ぎる月光の風景に、カメラはちょっと諦めて、ただ夜風に吹かれてみた。

帰ってきて良かったとしみじみ思った。